国際結婚in上海

老舗 鉄人52号復活!

褒めころし(2)

 体調はまぁまぁだったのですが、暑さに参って更新が滞ってしまいました。平に平にご容赦を・・・

女房の余計な一言で義弟とカラオケに行くことが決定事項となって以来、義弟は一層熱を入れて練習していると、お義母さんよりタレコミあり。
あまり日が開くと本人のイライラが募って、普段から犬猿の仲である母親と激しい口喧嘩が始まっても困るので、女房にそろそろ打診して都合を聞いておけと指示した。
義弟は来たかチョーさん待ってたホイとばかり、いつでもOKとの返事。
ほとんど夜勤の警備仕事だから、昼間ならどんなことをしても都合をつけるって気合いだった。

カラオケに誘ってカラオケだけに行くんじゃ脳がないので、たまのことだからもう一工夫。
上海料理が殆ど口に合わない私が唯一薦める日式焼き肉店がカラオケ店と近いので、ここででまず腹ごしらえをしてから行けば義兄の私の株が更に上がると踏んだ。
とにかく日ごろ家族からも迷惑がられ、近所からの苦情にもめげず頑張って歌っているのだから、せめて今日だけ私だけでも褒めちぎり、その成果を認めて最上の気分にしてやろう思った。
きっと親姉弟、息子より、なんて自分のことを理解してくれるお義兄さんなんだろうと感激するに違いない。今回はそこが狙いだ。
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(ランチ上カルビ定食45元(730円)、この他に食後の果物、コーヒーも付く)

この店は初めて知った17年くらい前1元=12円レートの頃で1人前30元(360円)と昔から値段は良心的だった。
昨今、上海はインフレ気味で根拠もなく物価がどんどん高くなり、17年前と比べたら軒並み2倍3倍と値上げしているのが現状だが、わずか15元の値上げで凌いでいる。アンタはエライッ!
義弟が定食1人前では足りそうもないから2人前食べていいかと聞いてきた。
女房もここは遠いから滅多に来られないので、同じく2人前に挑戦するという。
若いってのは実にいいもんだ、うらやましい。
私だって10年くらい前までは2人前食べられたが、もうとてもそんな食欲はない。
上海の店は3人で5人前注文しても、いっぺんに全部持ってくる。
1つ食べ終えた頃を見計らって、もう1つを持ってくるなんて細やかな芸当は絶対にしない。
1つのテーブルに載せきれないので隣のテーブルまで占領して楽しいランチが始まった。

今までよく餐庁で義父母を食事接待したが、義弟には殆ど声を掛けずに来た。
みんなの都合を聞いていたら中々纏まらないという理由もあったが、接待は親孝行の両親だけで十分、弟や甥までは義理がないとあまり積極的になれなかったのが本音だろう。
ところが昨今状況は随分変化してきた。
女房との再婚から上海と関りをもって20年、陰になり日向になり実家を支援してきたが、一家の大黒柱であるお義父さんがそれに慣れ切って、いつしか親孝行や接待は当たり前と思うようになってきたことで、関係もどこかギクシャクするようになってきた。
昨年も日本料理屋での接待の折、女房がすき焼きを注文したところ、お義父さんは口に合わなかったのか「こんなの日本料理じゃない」と食べるのを投げやりにして不貞腐れた。
確かに日本へは二度訪日しているが、それでどのくらい日本が分かっているというのか。
多少味付けが落ちるものの、日本人の私がすき焼きと認めているのに、なんと傲慢な言い様。
いくら身内とはいえ、子供じゃないんだから接待した方の立場を考えたら、国は違ってもそんなこと言えないと思うのだが。
それでも人の好い私は数週間後口直しにと、以前お義父さんに好評だったとんかつ屋に招待した。
混むからとお昼ちょっと前の11時半に待ち合わせ、和風造りのとんかつ店の暖簾をくぐった。
実家からも近かったので、この日は珍しく義弟にも声を掛け、私らと義父母と義弟の5人でのランチ。
写真付きのメニューをそれぞれに渡し、好きなものを選ばせた。
こんな時、お義父さんは料理の好き嫌いよりも、値が張る料理に基準を置いて決める。
自分の金だったら、こんな店絶対に来ないだろうし、注文しないだろうが、人の金となると全く遠慮がない。そこで決まったのが脂身のないヒレカツ&海老フライ御膳1人前78元(1250円)也。
これを見て義弟も右へ倣い、義母は最近食が細くなったせいもあり、無理をせずヒレカツ御膳にとどまった。
私らはとてもこのボリュームは食べきれないと判断、エビフライ抜きの御膳にしておいた。
うちの近くに最近できた大衆餐庁のランチ定食が12元(200円)からであることを考えると、やはりそれなりに高い。
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(テーブルに所狭しと並べられたヒレ&海老フライ御膳、摺り胡麻付きなのが本格っぽい)

さてテーブルのそれぞれの前に注文したとんかつ御膳が並び食べ始めた。
義弟はとんかつは初めてとかで、「ハウツー(うまい)」を連発する。
東京じゃもっとうまいとんかつ屋を知っているが、上海じゃまぁまぁってとこだろう。
このまま和気藹々と食事を終えて解散すれば、奢った方も奢られた方もお互い気分良く帰れたのだが・・・・対面のお義父さんの様子がちょっとおかしい。
食が進まず、いかにも不味そうに持て余し、「俺の分も食べろ」と義弟の皿へフライを強引に移す。
義弟は義弟で食べきれないからと嫌がり、中国人特有の大声で喧嘩でも起きたように怒鳴りあっている。
あれ?この前は「ハウツー、ハウツー」と食べていたのに。
隣の女房に耳元で囁いた。

「お義父さん、どっか具合悪いんじゃないの?あんまり食べてないけど」

女房はカツを頬張った口をモグモグさせながら、面倒臭そうに訊ねた。

「今日は日曜で寝坊したので朝ごはんが遅くなって、出掛けるちょっと前にお粥を沢山食べてきたんだって」

私は目が点になった。
今日の食事接待はいきなり決めた訳ではなく、4日も5日も前に都合を聞いて決めていたこと。
お昼は皆でとんかつを食べるのは承知していただろうに、これは最近旅行も連れて行かなくなったし、小遣いもやらなくなった私への面当てか。
そんなに面白くないのなら、誘った時に断ってくれればいいものを。
それに食べられもしないのに、なんで欲張って一番ボリュームのある御膳を頼むんだ。
人に無理に散財させるのが、そんなに楽しいのか。
私だって昔と違って収入の道は大きく変わった。
収入がないから健康保険料も介護保険料も税金も最低だ。
私に比べればお義父さんもお義母さんも年金をもらっているし、安いとはいえ仕事もしているじゃないか。それなのに収入の道が殆ど絶たれた私に、まだ過剰なサービスをさせるつもりなのか。
中国が赤貧に喘いでいた時代を生き抜いてきた世代は、貰えるものなら何でも貰う、人が困ることより自分の得を優先させるといった風潮がまだ根強く残っている。
世代交代が進めば中国も変わってくるだろうと期待しているが、いつのことになるのやら。
体調の悪い私には残り時間が少なく、それを見届けることができないかも知れない。

                             つづく

   
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褒めころし(1)

 上海にいる女房の実弟が最近カラオケに嵌っている。
私らが上海にやって来る2か月ほど前から、カラオケに乗せた自前の歌を頻繁に携帯に送ってきた。
女房は本人が自慢するほど上手いとは思わなかったが、それをストレートに言っては身も蓋もない。
どこか偏屈なところがある弟だから、触らぬ神に祟りなし、社交辞令的に「いいね、うまいね」と軽く受け流していた。
ところが本人はそれを真に受けてしまい、毎日のように送ってきてはその都度感想を求めてくる。
もともとあまり仲がいいとはいえない姉弟、忍耐もここまでと「私も忙しいから、毎日は聞いてられない!」とピシッと言ってしまった。

義弟は息子が小学校に上がるか上がらないかの時に離婚した。
母親も愛情が薄かったのか、それほどゴタゴタせずに親権は弟が取った。
以来、足らないところがあったにせよ何とか育て上げ、昨年就職代わりに2年間の兵役に就いた。
弟は再婚したかったが、多感な年頃の息子を抱え、親と同居のうえ狭い住宅事情もあってなし崩し的に断念。
他にこれといった趣味もない寂しい男が、やっと楽しいと思えることを見つけたのに、そんな言い方をしたら可哀想じゃないかって、女房を窘めたんですけどね。
もうすぐ上海へ行くのに、ここで誰か味方しといてやらなきゃまた揉めると感じた私は、「俺が上手いって言っていたぐらい言っとけ」と女房に強く指示しておいた。

そうはいっても、私は元来がそんな上等なことがいえる人間じゃないんですよ。
正直な気持ちは、どこか面白がっているところがあって、あの単純な義弟を「上手い、プロみたい」なんて褒め捲ったら、果たしてどこまで舞い上がるか見てみたいなんて人が悪いことを考えている。
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(お義兄さん、待ってたよとばかりに熱唱する義弟)

上海到着から1週間、義父から食事の招待があった。
ピンポ~ンを鳴らして玄関ドアを開けたら、いきなりの大音量で義弟の歌声が聞こえてきた。

「ほらね、アンタが上手いなんて褒めるから、本人がすっかりその気になっちゃってる」

リビングに面した弟の部屋のドアは開け放たれ、モニターに向かってマイクを持つ弟の姿が目に入った。義母がいうには、少し静かにしてくれと近所から苦情も来たそうで、すでに周囲からの認知度も高そうである
毎日こんな調子で聞かされているお義父さんお義母さんも大変だろうと同情するが、このカラオケのお陰で最近嫁が欲しいと言わなくなったから、むしろそっちの方が有難がっているようだった。
熱唱中の弟も私が来たことに気づき、目が合ったのでヨッと手を翳して挨拶したら、弟も歌いながら手を振った。

今日の食事のメインは、グツグツ煮込んだ鴨スープやゼラチンたっぷりのスッポン鍋が苦手な私に気を使って、私が比較的一番箸が進むしゃぶしゃぶ風火鍋にしたそうな。
食事の支度はもっぱらお義父さんの役どころ。整うまでのしばしの時間、弟は曲調をアップテンポからバラードまで歌い分け、自分が並みの才能ではないことを最大限アピールしている。
本人がどう思おうが、はっきり言って評価は下手の横好きである私といい勝負程度の歌唱力。
まぁ本人が自分は上手すぎると自己陶酔しているのだから、ここで褒めそやしては目覚めた時の傷が深くなるばかりの逆効果とは思ったが、何も声を掛けないというのもかえって不自然。
そこで当初の予定通り、感情を押し殺した褒め台詞を連発した。

「歌い込んでるから上手さが違うね」
「カラオケ行くの?え、行かない、そう。カラオケの採点やったら90点は行くぜ」
「録音したCDなんか、プロが歌ってるのと勘違いしたよ」
「これだけ歌えたら会社の誰もかなわないでしょ」
「えっ、300曲も歌えるの!俺なんかせいぜい50曲くらいしかレパートリーがないよ」

当面思いつく限りの賛辞を並べ立てた。女房は褒め過ぎだとそのまま通訳するのを躊躇ったが私が強制した。弟はまさに豚も煽てりゃ木に登るほどの喜びようだった。
女房が「今度カラオケに行こうか」と水を向けたら、一返事で「行こう行こう」という熱っぽい返事が返ってきた。

「おいおい、俺はそこまで言ってないぜ、そんなこと勝手に言っちゃって俺は知らねぇ、知らねぇぞ」
「こんなにその気にさせちゃってアンタが褒め過ぎなんだよ、このくらいのこと言わなきゃ、今日は帰れやしないぜ!」
「その、ぜ!はやめなさいよ、何遍も言ってるだろ」

女房の男言葉はもう生涯直りそうもない。
そんな訳で悪ノリが過ぎて、近々カラオケに行く羽目になってしまったが、この顛末は次回お楽しみに・・・・

                             つづく

   
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兵(つわもの)

 私が住むマンションの2つ3つ上の階で、最近内装工事が始まった。
上海の内装工事は私が知る限り20年くらい前とほとんど変わらず、壁・天井は左官塗りの躯体にパテでしごいて塗装というのがまだ一般的である。
日本のようにボード張りの工程がないので、壁とコンクリート躯体の間に隙間がない。
それじゃ電灯やコンセントの配線はどうするかというと、躯体を斫(はつ)り溝を作って配管を埋め込むなんて手間のかかることをいまだにやっている。
それはそれぞれの国のやり方だから、私がオーナーでも監督でもない以上、イライラ気を揉んだって仕方ない訳で、一日も早く終わってくれるのを祈りジッと待つことにも慣れた。
内装工事に騒音は付きものだから、マンション世帯全体がお互い様といった意識が強いようで、大抵のことは我慢してしまう傾向が強い。
その代わり自分のところが始める段になったら、何の挨拶もなくその時の倍返しとばかり大きな顔でおっぱじめる。

体調が悪く、以前のようにあまり出歩かなくなった私にとって、騒音被害は甚大だ。
朝から晩まで電動ハンマーの小刻みに叩きつける打音が脳天に響き、それはせっかく改善したうつ病がまたぶり返ししそうなほど。
そのうち私のところだって全面改装しなきゃならないと思えばこそ、耳栓したりしてひたすら耐えていた。

ところがそんな心遣いや互助精神なんか吹っ飛ぶ事態となった
うちのマンションは規約で内装工事は日曜祝日は基本的に作業は行えない。
作業時間も朝8時から夕方5時までと決まっている。
だが朝は7時前から電動ハンマーの振動が鳴り響き、夜は9時頃まで作業の音が続く。
日曜祝日もお構いなし、多少遠慮がちにやってくれればまだ可愛げもあるが、そんな気配は微塵もない。うちから工事階は4階ほど下でもこんなに影響があるのだから、同じ階は勿論、上下階は相当堪えてる筈だ。
離れている私が騒がなくたって、そのうち周りが放っておけなくなるだろうと思って我慢していた。
女房に聞いたらその通りで、とっくに近隣住民の苦情が管理事務所に相次ぎ、警備員が再三に渡って規約を守るよう工事人に注意したが、のらりくらりと一向に改める様子がない。
堪りかねた住民が何人かで直接文句を言いに行ったが、ドンドンと扉を叩いても知らんぷりを決め込んで出ても来ない。
鉄面皮が多い中国人だが、こいつは別格だ。
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(早朝6時からレンガやセメントなど工事資材を搬入する内装業者)

上海の発展が勢いづいてきて建設ラッシュに沸いていた20年前頃、地方から出稼ぎ農民工が大挙して押し寄せてきたが、労働環境は今でも根強く残る戸籍制度からくる差別で劣悪だった。
上海戸籍を持つ庶民の半分にも満たない低賃金の上、出来高払いの歩合制。
働くだけ働かされた挙句、元請けにトンズラされたなんて話はしょっちゅうだった。
大きな新築現場なら飯場があったろうが、個々の内装工事の大工など宿代を浮かすため現場に泊まり込み、そこで自炊しながら1日も早く仕上げて郷里に金を送りたい一心で、寝る間を惜しんで働いた。
そんな同情すべき時代だって、ここまでやられたら黙ってはいられない。
それとも上海の開発もあらかた終わって建設の仕事も少なくなり、需要と供給の関係で再び賃金を値切られるようにったから、仕方なく労働時間を増やすことで帳尻を合わせるようにしたのか。
いずれにしても近隣にとっては大迷惑この上ないのである。


   
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運の尽き(4)

 エレベーターを10階で降りると、すぐに歯科待合ロビーが広がっていて、かれこれ50人くらいの患者がイスに座って待っていた。
おおっ、一瞬絶句。日本の大学病院だってこんな混んでるところはないぞ。
正面診察室の出入り口上には赤い電飾の電光板があり、受付番号と患者名、それと診察室番号が表示されている。
中国人の姓名は大体3文字なので、キッチリ決められた枠内に収まっているが、招かれざる客の私の苗字が繁体字にないせいか、はたまた外国人はアルファベット表記が原則なのかは分からないが、とにかく不本意でも目立つ一人アルファベットで表示される。
さっき受付の電光掲示板でもそうされていたから、きっと診察の順番表示も同じだろう。

診察室は8部屋あるようで、流れ作業のように診療を次々とこなしてはいるようだが、なんせ待っている患者が半端な数ではない。
患者によって診療時間の長い短いはあるだろうが、現在表示されている番号は35番から60番まで。
私の受付番号は186番、診療時間は夕方5時で終了なので、残った分は明日に回されるという話だ。

「こりゃ、待ってたって今日順番が回って来るかどうか分からんぞ」

女房はそれでも待つしかないと、人間が多い中国じゃ待つことが当たり前と何食わぬ顔だ。
あと優に100人以上待たなければならない。
こんな固い椅子に5時間も6時間も座っていたら、また痔が再発しちゃいそうだ。
いつ順番が回って来るのか、イライラが募る患者同士が不満をぶっつけ合っている。
一番先頭に座っていた高齢おばさんが、

「私なんか朝一番で並んでいるのに、あと30人も待たなきゃならないのよ、いやになっちゃう!」

と吐き捨てるように呟いた。
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(みんなが見詰める電光掲示板の順番表示)

私は女房の耳元で、一旦帰って出直して来ようと提案した。
女房は諦めて帰った人もいるから、いつ呼ばれるかも知れないし、折角来たんだから待った方が得策だと言ったが、私の気力がみるみる萎えてきている様子に不承不承従ってくれた。
それなら何時ごろ出直して来たらいいか受付に聞いてくると言って立ち上がった。

ちょっと浮かぬ顔をして戻ってきた女房の言うには、「よそで作った歯の修理は基本的にやらない」とのこと。
担当した医師にもよるが、順番を待って直接医師に掛け合ってみてくれと受付嬢は連れなかった。
それを聞いた私の気持ちは一気に友人が紹介してくれた医院の方へ傾いた。
夕方出直してきても、治してもらえない公算が強いなら、帰って確実に診療してくれる医院の予約を取った方がいい。
だが女房は、「折角順番札まで取ったんだから、夕方もう一度来て先生に頼んでみて、案外治してくれるかも知れないしさ、予約はそれからでも遅くないでしょ」と何かを予感したように引かなかった。

夕方4時に再びやってきてが、順番はまだ120番台。
あと1時間で60人はやはり無理だろうと、誰が考えたって分かった。
とにかく5時までは待ってみようと、女房は諦めていない。
郷に入っては郷に従え、中国の事情は女房の方が精通していて当然だから、ひょっとして奇跡かまさかの大どんでん返しが起きるかも知れないと僅かな期待を持った。

これまで20年間の夫婦暮らしの中で、ここ一番って時に女房の直感で助けられたことが一度や二度じゃない。
期待叶わずもし明日に順番を回されたら仕方ない、明日また出直せばいいと腹を括ったら、いきなり電光板の順番番号がポンポンと進み、5時10分前に待ちに待った私のローマ字表記の名前が打ち出された。
ちょっとキツネに摘ままれた感じではあったが、「早くっ!早くっ!」と半分怒鳴り声の女房の後を追いかけるようにして診察室へ。
そこには経験豊かそうな中年医師と若い女の助手が、終業間近でかなり疲れている感じでいた。
広さ4畳半ほどの診察室は薄暗く、診察台の脇の治療器具を乗せるテーブルも患者ごとにいちいち片付けないのか雑然としている。
女房は手短に私が外国人であること、急に差し歯がとれてスゴク困っていることを話した。
テッシュに包んだ差し歯を見せると医師は、「分かった、分かった」と、着けるだけならグダグダ言ってるより、今日最後の患者だから早く済ませて解放されたかったようで、その点でもラッキーだった。
そして医師はこう付け加えた。

「本当は差し歯を作った医院で治してもらうのが筋だが、あなたは外国人だからそういう訳にもいかないだろうから特別だよ」

治療はものの10分で終わった。口の中が再び生き返ったようで感謝感謝。
きちんとした治療ではなく、とりあえず着けただけだから、いつまで持つか分からないとのこと。
治療費も女房納得の105元(1700円)で済んだ。
やはり国立病院に準じる大病院は、外国人だからと言って足元を見るようなことはしない。
これで何とか一難去ったが、今度取れたら帰国するしかないかという諦めが脳裏をよぎった。

                             おわり

   
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運の尽き(3)

 女房が最近歯の治療を受けたという幼馴染に電話で事情を聴いてみた。
中規模クラスの医院で私と同じ差し歯治療をしたが、違和感があり出来栄えには100%の納得はしていないが、それでも治療費はしっかり3000元(48000円)も取られたという。
日本感覚なら自費診療であれば、むしろ安いくらいだが、上海庶民の平均月収が5000元(8万円)から考えれば、かなり痛い金額だ。
持つべきものは友とはよく言ったもので、この友人はわざわざよそで作った差し歯だが、取れてしまったので再び接着するには幾らぐらい掛かるか聞きに行ってくれた。
加工などせずそのまま接着できれば300元(4800円)くらいと、折り返し電話があった。
上海に吹き荒れる物価高のこのご時世、私はそんなもんだろうと思ったが、女房は取れたものをそのまま着けるだけなのに、300元はまだ高いと納得できない様子。

女房は規模の小さい医院だとボラれるから、この際、大きな病院で診てもらった方が絶対いいと、電動バイクで15分くらいの距離にある中山医院を強く勧めた。
日本語で書くと小さな個人病院のようだが、中国では病院のことを医院と書き、正式名称は復旦大学付属中山医院という。
上海でも一、二を争うマンモス病院で、私もしつこい風邪や、痛風を発症したり、肺炎に罹った時などここでお世話になったから知っている。

私とすればとにかく歯を元に戻してくれるところならどこでも良い訳で、もしこの大病院がやってくれなかった場合を考慮して、二の矢、三の矢を考えて置くべきと、上海に移住している私の友人にも聞いてみた。
半年ずつ行ったり来たりの移動をしている私と違って、その友人は上海にずっと住んでいる訳だから、ひょっとして歯の治療をしたことがあるかも知れないと思ったからだ。
案の定、中国人だが日本語ができて腕も確かで費用も良心的と三拍子揃った医師を知っていた。
以前、奥歯の被せ物が取れてしまった時、着け直してもらったが、100元でやってくれたと言う。
それを聞いて私はすっかり乗り気になり、詳しくその医院の電話番号や医師直接の携帯番号などを教えてもらったが、一つ難点があり、全部予約制なので今日の今日は無理かも知れないとのこと。
大学病院ならかなり順番を待つかも知れないが、当日診てもらえる可能性は高い。
そこで今日はこれから中山医院に行くつもりだが、もし駄目だったらすぐに教えてもらった医院に電話してみると話して電話を切った。

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さすがは上海一の大病院、大壁面に張り出された圧倒する医師の数

1階の巨大エントランスの正面には、競馬の馬券売り場とそっくりなカウンターがあり、ズラッと並んだ窓口にはそれぞれ沢山の人が並んでいる。
まずここで診療費を払う。一般診療だと22元(350円)だが、専門医師を指定すると168元(2700円)に跳ね上がり、所謂、水商売の指名制みたいなシステムになっている。
反対側の壁面には、病院の医師の名前が書かれた札が一面に張り出されていて壮観だ。
ザッと4、5百人に上る数ではないだろうか、医師不足の日本から見たら溜息が漏れそうな数である。
エレベーターで10階に上がる。
まだ午前11時だからそれほど混んでいないだろうと高を食っていたのだが、それがとんでもない間違いだったことに否が応でも気付かされた。

                             つづく


   
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